イグ・ノーベル賞、18年連続で日本人が受賞 ― ブタの腸からの呼吸が話題に

科学&テクノロジー

10月13日、日本時間、今年のイグ・ノーベル賞が発表され、東京医科歯科大学と大阪大学の教授である武部貴則さん率いる研究チームが「生理学賞」を受賞しました。研究チームは、肺の機能が低下したブタなどの動物の腸に、酸素を高濃度で含んだ液体を注入し、その影響を調べる実験を行いました。実験の結果、血中の酸素濃度が著しく上昇し、特定の条件下では呼吸不全の症状が改善することが確認されました。

イグ・ノーベル賞の主催者は、「多くの哺乳類が腸からも呼吸できる能力を持っていることを発見した」と評価しました。日本人の受賞はこれで18年連続となります。

受賞スピーチでのユーモア

13日に行われた授賞式では、武部教授が「お尻で呼吸できるという能力を信じてくださってありがとうございます」と英語でスピーチを行い、会場は大きな笑いに包まれました。続いて、研究チームのメンバーがブタの人形や酸素を模した風船を使い、ユーモアたっぷりに研究の内容を説明しました。

スピーチ後、NHKのインタビューで武部教授は、「皆さん、『お尻』という言葉に面白さを感じるかもしれませんが、この研究は医療の新たな可能性を提示しています」と語りました。また、今回の受賞について、「『変わった視点で研究を進めても大丈夫』という勇気をもらえました」と感想を述べ、今後も独自の視点で研究を続ける意欲を示しました。

再生医学の専門家としての武部教授

武部貴則教授は、再生医学の分野でも数々の画期的な研究成果を発表してきました。11年前、26歳の時にヒトiPS細胞から肝臓の機能を持つ細胞の塊を作ることに初めて成功し、世界的な注目を浴びました。その後、2019年にはヒトiPS細胞から肝臓や膵臓など複数の臓器を同時に生成することに成功し、移植医療への応用が期待されています。

こうした細胞の塊は「オルガノイド」と呼ばれ、病気の解明や新薬の開発に役立てられています。また、若手研究者を支援するための法人も設立し、研究環境の整備に尽力しています。

今後の展望

今回の研究で、肺の機能が低下したブタに酸素を含む液体を注入した結果、血液中の酸素濃度が大幅に上昇し、呼吸不全の症状が改善されることが確認されました。また、酸素を注入されたマウスが酸素が少ない環境でも活発に動き回ることも観察されました。

この研究成果は、2021年に新型コロナウイルスの影響で重い肺炎患者が増加する中で発表され、呼吸不全の新しい治療法として注目されています。現在も実用化に向けた研究が進行中で、武部教授が設立したベンチャー企業が安全性を確認するための臨床試験を行っています。

武部教授は「今回の受賞に当初は複雑な感情を抱きましたが、イグ・ノーベル賞の『人を笑わせ、考えさせる研究』という理念に感銘を受けました」と述べ、2028年までには新しい医療機器としての実用化を目指しているとしています